わたしのかご 最近、校内外で不穏な事が続いている。 人が死ぬのは嫌なものだ。顔も知らぬのに悲しい気分になる。 殊に子細を知る友人にその様子を聞いてから、うちの学校も他人事ではないなと強く思うようになった。 外はどこもぴりぴりとしていて、教室内の平和な空気が寒々しく思える。 それでも戦っているのだ、彼らは。この風景を守るために。 同じ年の少年も、死んだ中には入っている。 他人事ではないのだ。ひたすらに。 「どうしたの、りりとちゃん。難しい顔して」 会った当初はまぁいつもだけど、といらぬ言葉を続けたがために私に小突かれていた少年も、いい加減学習したのだろう。 今はただ私の顔を覗き込んでくるだけだ。 そんなに長く、近く一緒に過ごしていたろうかと、彼の手にとるパプリカの赤をみながらぼうやり思った。 守れるものは守らなければならない。 自分の手で。できるかぎり。 例えば彼が今その手に力を入れたとして、パプリカは割れ砕けてしまうだろう。 でも私は、その前にパプリカを取り上げて、何もなかったように棚に戻すこともできるだろう。 やるかやらないかなのだ、すべての問題は。 「吉井」 「なに」 「君は、私が守ろう」 ごくごく真面目に言ったつもりだったが、言われた相手は小さくふきだしたきりだった。 「女の子に守られるのはなぁ」 そういって笑いながらパプリカをかごの中に入れる。 そうだ、こいつはこういう奴なのだ。 何でもないような顔をして、何でも受け入れてしまう。 おかげでかごの中はいつも満杯だ。 「吉井」 「なに」 「そのお菓子は買わないぞ。予算オーバーだ」 「えぇー……」 ついでに言うと、人のかごにもひょいひょいと勝手に物を入れてくる奴。 守れるものは守らなければならない。 自分の手で。できるかぎり。 守れるものは守らねばならない。 この手が届く距離である限り。 「赤沢」 どこか遠巻きに私達を見ていた後輩は、少し面食らった顔で、はい、と返事をした。 「君もだ、赤沢」 真面目な顔をして私の言葉に頷いたその少年は、沈痛な面持ちでお菓子の袋を一つ、棚に戻した。 そうじゃないのにと思わず笑った私のかごは、それでも二人の入れたもので一杯なのだった。 ++++ 我井帝工VS界重畜産辺りの後日談。 りりと、吉井君、赤沢君。