「ねぇ、銀、ピアノ弾いて。」 狭いベッドの上で二人、猫のようにじゃれあっていた。 本当の猫の方が、呆れたように肩をすくめる。 飼い主は、それを見て頬をふくらませた。 猫の爪がそれをつついて、可愛らしい風船は間抜けな音を立ててしぼむ。 そうしてまた、じゃれあって。 「銀、ピアノ」 「何で」 あぐらをかいた猫の足の間に、体を対面させる形で、すっぽりと飼い主の体が収まる。 そのまま額と額をくっつけて、睨めっこ。 「銀のおとーさんの部屋に、おっきなピアノあった」 「そんで」 「縦型のだけど、おっきな奴で」 「ライトアップピアノっていうんだよ」 「よくわかんないけど、それが、あって」 「そんで」 「銀のピアノ、ききたい」 睨めっこは、しばらく続いた。 三拍子。たんたんたん、たんたんたん。 ジムノペティ。 第二番は、『遅く悲しく』。 「これ、」 「『あたしでも弾けそう』」 「……なんでわかるの」 「単純だから」 怒ったのか顔を赤くして、傍にあったクッションを投げようとする飼い主の少女。 「単純だから、わかるよ」 その手が止まった。 (体中の痣も、傷も、みんな不自然で) (それにやたら多くて絶えなくて) (へらへらへら笑ってるけどごまかしきれてなくてさ) 「わかるんだよ」 少女が、クッションに顔を埋めた。 「……嘘吐き」 ――それ、嘘にしてしまってよ。いい子だから。 声がくぐもっているのは、クッションのせいか、それとも別の理由か。 「ごめん」 従順な猫はゆっくり目を閉じた。 それでもピアノからは静かな旋律がこぼれ続ける。 伸ばされた音の中に、一つ、小さくしゃくりあげる声が入って。 第二番は、『遅く悲しく』。 「ごめん、せせり」 (いまだけは、だまされてやるから) (だから) (だから、泣かないで) 「……わかるって。お前には無理だよこの曲」 「だってリズム感とかないじゃん、すぐこけるしさ」 「……ひどーい」 飼い主は顔をあげて、猫も目を開けて、また元通り。 それでも二人の笑い顔は笑い声は 悲しく 歪んでいた。
どっちもどっちの二人。 な気がする。 わかってないふりをするのが得意。 嘘っこ笑いをするのが得意。 なんちゃって三部作二つめ。 |
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