はっ、はっ、はっ、という荒い息は、私が発しているものだろうか、目の前の彼のものだろうか。

頭上に蝉の声を聞く。
そうだ、私たちは蝉を捕りに来たのだ。




「りりとちゃん、虫、とりに行こう」




ぼそぼそと小さな声で、おどおどと上目遣いに私を見て、黄緑色をしたプラスチック製の虫篭を右手にぶらさげて。
年はそう変わらないはずなのに私よりも体の小さい彼は、私がその誘いに頷くと、少しだけ、嬉しそうにして下を向いた。


舗装もろくにされていない一本道を、二人で駆ける。
麦わら帽子の大きなつばのせいで、景色は映画のスクリーンみたいに横に広がって見えた。
その真ん中を彼が走る。
追いつけない私は帽子を押さえ、待って、と声をあげ――











呼応するように増えた蝉の声は、なにかの警告のようだった。

彼がしゃがんで耳を、頭を押さえているのはそのせいだろうか。
荒い息はその間隔をせばめ、ひきつるように続いている。

がくり、がくり、小さな頭が揺れる。
その合間に見えた彼の顔には、黒い小蛇がいくつも這っていた。



「はしって!」



悲鳴まじりの彼の声に、私は背を向けて駆け出した。
高い木々の間から、太陽が土の上にまだらに光を落とす。
途切れないその永遠の景色。
こんなに深いところまで入ってきてしまったのだろうか。
出口が、出口が、出口が、





「絶対に、振り返っちゃいけない!」





遠く、声のした方向に、麦わら帽子が飛んでいった。


















 ある日森の中猫さんに出会った(謎)

 蛇に見えたのは模様であろう。













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