みんなで海行こう
「寒い時期の海もいいわよねー」 そう言って伸びをすると、砂がつくのも構わず、緋瑪留は砂浜に腰を下ろした。 長い金色の髪がいつものように風に靡かないのは、後ろ髪をシニヨンにまとめているからだ。 「これ。そんな短いスカートで行儀悪く座るものではない」 「はーい」 子供のような口調で返事をすると、両膝を折って足を横に座った。 その数歩後ろで、雨堂が年寄りじみた動作でやれやれと首を振る。 隣にいる蔵本は、いつものごとく無口だった。 それにしても男三人で秋の海。なかなか寂しいものである。 男、三人で。 「……まぁ、男の下着を見るような奴もおらんと思うがの」 「雨堂ってばひっどーい!あたしは男じゃないもん!」 「れでー、とか言うんじゃろ」 「レディね。まぁ女ってわけでもないけどさ」 「どっちだよ……」 「心の問題なのー」 れっきとした男性二人から見える彼女(と仮にしておこう)の後ろ首は 細い方ではあるがよくよく見ると男性の骨格をしていた。 それを気にして髪を伸ばしているというから、レディという主張は案外間違ってないのかもしれない。 「で、何で海になんか連れてきたんだよ」 蔵本の言葉に雨堂も静かに頷く。放課後、半ば無理矢理と言える形で二人はここに連れてこられた。 緋瑪留はうーんと小さく唸った後、ぽつりと呟いた。 「思い出かなぁ」 波の音より力ないものだったけれど、その声ははっきりと二人の耳に届いた。 「……くだらねぇ」 「あっ、くだらないとはなによー。あんたが聞くから答えたんじゃないの!」 「これこれ落ち着かんか。で、思い出とは」 蔵本の方に体を捻って一方的な喧嘩腰になっていた緋瑪留は、そのままの体勢でまたうーん、と唸った。 「ほら、もう三年なわけだし?」 「……なんだそれ」 「それにさ。あたしたちは救護団で、いつ死ぬかも分からない救護団で」 我井帝高の団員が一名、界重高の団員が二名死亡した。最近のことだ。 人事ではない。緋瑪留も雨堂も蔵本も、皆彼らと同じ救護団なのだ。 「あたしは自分でこの道を選んだし、あんたたちもきっとそうよね。  覚悟なんて入団する前から出来てるつもりだし、今でもそれは変わってないわ。  ……いえ、後輩が出来て、友達が出来て、仲間が出来て。さらに強い覚悟を抱くようになったかも」 目を伏せて砂を指でさらさらといじる。蔵本も雨堂も、表情を変えることなく、ただ、それを見ている。 「でも、ときどき怖くなるわ。もしかしたら明日にでも誰かに何か起こるんじゃないか。  アリスちゃんに。青に。ゴエちゃんに。……あんたたちに。  一緒に笑ってる間でも、ふとした瞬間に思ってしまう。もしこんな時間が明日消えてしまったら、あたし」 「馬鹿じゃねぇの」 だんだん涙声になっていく沢山の台詞を、蔵本がその一言で止めた。 眉の下がった顔をあげた緋瑪留は、言葉を詰まらせてただその顔を見る。 「蔵本」 雨堂がたしなめたが、構わずに彼は続ける。 「思い出なんて過去のもんだろ。一分一秒でも長く生きてりゃ自然に出来る」 「……佐藤、お前がしてるのは、なんの覚悟かの」 諭すような二人の言葉に、緋瑪留の顔がはっとする。 死なない覚悟。死なせない覚悟。 救護団に必要な覚悟は、死ぬ覚悟だけではない。 はっきり言われたわけではないが、緋瑪留は二人がそれを教えてくれてるような気がした。 「あたし…………有難う、二人とも」 「泣いてんじゃねぇよ。めんどくせぇ」 「な、泣いてない!このどこが泣いてるのよ!」 勢いよく立ち上がった緋瑪留のむくれ顔に、雨堂が苦笑する。 「これ、そんな顔するでない。あまり怒ると皺が増えるぞ」 「うそー!怖いこと言わないでよー!」 「せっかく綺麗な面してんだしな、勿体ないからあんま皺つくんなよ」 「やーん蔵本ってばー」 「……怒ったり照れたり忙しい奴じゃの……大体お前は……」 蔵本の背中をばしばしと叩く緋瑪留の顔には、いつもの明るい表情が戻っている。 それを見て、まあいいかと雨堂は言いかけた小言を珍しくつぐんだ。 代わりに、遠くから聞きなれた声がする。 「あ、先輩方!こんなとこにいたんですか!」 声をした方向に顔を向けると、堤防の上から霧人が手を振っていた。 「市内の銀行三ヶ所で同時に強盗事件が起きたんで、捕まえるの手伝って下さい!  犯人グループの数が多くて、放課後いたメンツじゃ手が回らないんです!  あ、マシンガン持ってるみたいなんで気をつけてくださいね!」 遠くから早口で叫ぶと、霧人は走り出した。三人は顔を見合わせて、同じく走り出す。 「二人ともぼーっとして怪我しないでよ」 「はいはい」 「これ、喋ってる場合でないぞ」 一分一秒でも長く、またこの二人と、それから皆と。 緋瑪留は前を見据えて、走る速度をあげた。


 まぁ、実際どんな意味で言ったか分からないですがね!
 しかも全て激しく想像という。

 蔵本君のクールさと雨爺の渋さが出なかった…。














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